フリーホラーの歴史

 1.はじめに

 フリーホラーの歴史はフリーゲームというネット上の個人の創作に由来している。そのため歴史を記録として遺す機会はこれまでほとんどなく、その共有も漠然としかされていない。一方でネット上の個人の創作に由来していても歴史を遺している例もある。なろう系は異世界転生や追放系という風にジャンルが分かれているが、その理由や経緯は広く共有されている。フリーホラーもそんな風に歴史を広く共有したい思いがあり、この解説を執筆した。
 フリーホラーを語る上でフリーゲームの存在は無視できない。そのため軽くではあるがフリーゲームの歴史にも触れている。具体的には「フリーゲームサイト、フリーホラー、フリーゲーム」という構成で執筆した。
 内容は絶対に正しいものではないが、それでもフリーホラーに詳しい人には一定の共感を得られると思うし、そうでない人が読んでもある程度の勘所を掴めると思う。とはいえ10000字もある文章を読みたくない人もいると思うので、そういう人はサイトURLや作品URLだけでもチェックしてみてほしい。
 この活動を通して目標にしていることは、「有フリゲ」「Eufree」タグを増やし、フリーゲームを価格やプラットフォームに囚われないものにすることだ。そもそもフリーゲームの文化について考える際に、無料だから文脈があり有料だから文脈がないと断じると、節々でまっすぐな考え方ができなくなる。そのためこの解説でも価格やプラットフォームの垣根を超えて、有フリゲという考え方のもとで歴史を執筆している。
 一方で副次的な目標としては、いくつかの偏りを解消することだ。海外ホラーの偏りとしては、日本や中国以外で王道ホラーが極端に少なく、日本以外で見下ろし探索のデスゲームがほぼない。3Dホラーの偏りとしては、全体的に作風が一様で2Dホラーのような多様性がない。ホラー以外の偏りとしては、非ホラーのフリーADVがほぼなく、中世ファンタジーや世界規模の壮大な話のRPGが多い。可能ならそれらをもっと多様にして時代感を進めたいと思っている。
 余談だがフリーゲームの歴史は8年周期で大きな変化があることが、執筆を通して見えてきた。具体的には2001年にはRPGツクール2000の発売によってPCゲームがメジャーになり、2009年にはフリーホラー実況の台頭によって懐古ホラーが誕生し、2017年には微ホラー化の流れによって王道ホラーが誕生した。その法則から2025年にも何か大きな変化があるのではと予想している。

 2.フリーゲームサイト

 フリーゲームの文化は主に「投稿サイト、コンテスト、レビュー、実況」の4つから成り立ち、それらがバランス良く共存してきたことが文化の発展を大きく後押しした。この章ではそれら4つをそれぞれ主要なサイトを挙げつつ紹介する。
 ちなみにここで紹介するものはゲーム探しにもおすすめのサイトばかりだ。中でもおすすめしたいのは実況の再生リストで、個人的にもフリーホラーを知る上で最もお世話になった情報源だ。

 2-1.投稿サイト

 日本の主なフリーゲームの投稿サイトとしては、「ふりーむ!」「ゲームアツマール(†)」「PLiCy」「フリーゲーム夢現」が挙げられる。他にも投稿サイトはあるが、「ノベルゲームコレクション」「BOOTH」は同人ゲームの文化が強く、「unityroom」はインディゲームの文化が強い。また2023年にはアツマールの閉鎖とふりーむの規制強化という2大騒動があり、それを機にitch.ioなどへの移行の流れが加速しつつある。
 海外の主なフリーゲームの投稿サイトとしては、「itch.io」「Steam」が挙げられる。一方で海外の投稿サイトには埋もれやすいという問題がある。そこで考えられたのが、日本のフリーゲームの文化を示す「有フリゲ」「Eufree」タグだ。特にitch.ioは投稿サイトとして非常に優れているので、移行とタグ付けが推奨されている。
 ちなみにフリーゲームの認識が文化から徐々にずれていったのは、特定の投稿サイトに強く依存し、しかもその投稿サイトが有料やPC以外に軒並み非対応だったことが最大の要因である。その点でもitch.ioは価格やプラットフォームの問題をクリアしている優秀なサイトといえる。

 2-2.コンテスト

 コンテストはフリーゲームを最も文化的にした要素だ。インディゲームがショーケース文化なのに対して、フリーゲームはコンテスト文化なことは、特筆すべき興味深い差異だ。コンテストを大別すると、任意参加のものと強制参加のものに分けられる。
 任意参加の主なコンテストには「えんため大賞(†)」「ニコニコ自作ゲームフェス」「ふりーむ!ゲームコンテスト(†)」「PLiCyゲームコンテスト」「新人フリーゲームコンテスト」「WolfRPGエディターコンテスト」「有フリゲ」などがある。
 強制参加の主なコンテストには「フリーゲーム・オブ・ザ・イヤー」「フリーゲーム大賞」「フリゲ20XX(†)」「フリーゲーム名作選」などがある。強制参加といっても実際には希望すれば参加は辞退できる。

 2-3.レビュー

 フリーゲームは沼でもあるので、レビューはゲーム選びの情報として重宝されている。作者とプレイヤーとの距離が近く、指摘された内容が修正に反映されやすいことも特徴だ。
 フリーゲームのレビューサイトは意外に多い。中でも「フリーゲーム 優しい世界」は良質で良チョイスなレビューを投稿していて、時折執筆するコラムも非常に参考になる。レビューサイトは他にも「フリーゲーム年表」「超激辛ゲームレビュー」「ひとりアウトプット広場」などがある。

 2-4.実況

 フリーゲームの実況といえばやはりフリーホラーで、2009年から社会現象のように爆発的に広まった。一方で個々人にスポットを当てると一発屋が目立ち、フリーゲームをメインに活動し続ける実況者はあまり多くない。
 そんな中でも「ミヨシグちゃんねる」は良チョイスの実況を投稿し続けている。実況チャンネルは他にも「しゃもじ豆」「ハオ」「すまない、非力な私を許してくれ(†)」「しゅーやんのゲーム実況ch!!」「獅兎~大体フリーホラーゲームな思い出保管庫~」「あいと。」などがある。

 3.フリーホラー

 フリーホラーはフリーゲームを代表するジャンルだ。この章ではフリーホラーを独自の視点から7つのジャンルに分け、適宜代表作を挙げつつその歴史を解説する。
 ちなみに日本ではフリーホラーという名称が使われているが、海外ではホラーRPGという名称の方が一般的だ。
 歴史的に重要なフリーホラーを一つ選ぶなら絆輝探偵事務所を挙げる。幾多のゲームがあるにも関わらず、この作品を選ぶのには一切迷うことがなかった。それほどこの作品には計り知れないものがあった。
 余談だが日本は海外と比べてフリーゲームの有志翻訳者が非常に少ないので、もっと増えてほしいと思っている。

 3-1.ゼロ年代ホラー

 フリーホラーの原点はホラーノベルをRPGツクールで表現するところから始まった。RPGツクール2000が発売された翌年の2001年頃から、徐々に作品数を増やしていった。
 当初は追い駆けなどのアクション要素は少なく、ノベルのようなゲーム性に見下ろし探索だけを加えたものが多かった。中でも当時はフラグを立て損ねる度に仲間が死んでいくが、全員を生存させればトゥルーに到達できるものが一定数あった。
 その後RPGツクールやのちに登場したウディタは時代と共に進化し続け、それに伴って表現の幅も広がっていき、次第に主流は追い駆けなどの動きのある懐古ホラーに取って代わられていった。
 移行の要因には特定の作品に影響された面もあるが、実際には制作ツールの進化によってホラー表現の敷居が大幅に下がったことが最も大きな要因だろう。ただし海外の場合はその限りではない。
 一方の取って代わられたゼロ年代ホラーは、最終的には本来のホラーノベルに先祖返りするところに落ち着いた。

 3-2.懐古ホラー

 懐古ホラーはRPGツクールVXやウディタが登場した翌年の2009年に始まった。その頃からフリーホラーの作品数は爆発的に増加し、フリーホラー実況もメジャーになった。
 技術的にもRPGツクール200Xまでは未実装だった透過pngが使えるようになり、グラフィック面でのホラー表現が大幅に向上した。
 懐古ホラーの特徴は閉鎖空間で怪物に追い駆けられることや、暗い画面やジャンプスケアなどの恐怖演出や脅かしがあることだ。プレイヤーには怪物への対抗手段がなく逃げることしかできず、理不尽な即死を味わうこともある。だがそれらの理不尽はホラーということで許され、一定のプレイヤーから支持され実況での人気も出た。
 作品数が増えたことでジャンル分けもされ始め、2012年頃になるとメルヘンホラーとサイコホラーは種分化を果たす。それでも懐古ホラーの地位が揺らぐことはなく、安定して人気を博し続けた。
 ところが2016年頃から日本のフリーホラーで微ホラー化の流れが始まった。それによって懐古ホラーの勢いに陰りが見え始めた。そして翌年の2017年に王道ホラーが確立したことで、懐古ホラーからの離脱に歯止めがかからなくなっていった。一方で本来の目的である恐怖を求める作者は3Dへと移行していった。結果的に怖いホラーと怖くないホラーの双方からパイを奪われ、日本の懐古ホラーはジャンルとしては絶滅した。
 ちなみに丁度そのタイミングで、それまでの懐古ホラーを振り返る『神童ノ哥(2017)』という懐古ホラーが公開された。
 現在でも個々人の単位ではごく一部の作者が現存しているが、その中でさえ純粋な懐古ホラーは少ない。そのため優しい世界のレビューで最高点を付けた『血怨(2023)』を、日本最後の懐古ホラーとする案も挙がっている。初公開が2018年だったこともあり、その意味でも納得のいく案だ。とはいえこれは気持ちを整理するためのものであり深い意味はない。
 一方で日本以外では懐古ホラーはジャンルを維持できる規模で残り続けているとする説もある。特に有料作の中には人気の懐古ホラーが一定数あり、現在の日本のフリーホラーでは考えられないような理不尽な難易度のものも少なくない。

 3-3.メルヘンホラー

 メルヘンホラーはフリーホラーがメジャーになってしばらく経った2012年頃に、懐古ホラーから種分化するかたちで誕生した。
 メルヘンホラーの最大の特徴はメルヘンやファンシーな非現実空間で、売りとなるグラフィックの表現はツールの進化と共に年々向上している。メルヘン以外の特徴としては、少女が主人公になることが多く、主人公の内面がストーリーの軸になることが多い。非現実空間に閉じ込められるものが主だが、中には現実空間が舞台の場合もある。
 代表作にはフリーゲーム名作選で大賞を受賞した『虚ろ町ののばら(2018)』『無慈悲な笑顔(2021)』や、他にも『人間裏街道(2023)』『星に駆ける(2023)』などがある。ノベルでは主催者のいないデスゲームの『ノアの審判(未完)』などがある。
 他のホラーと比べてRPGとの親和性が高く、『楽園破壊(2018)』などのRPG要素のあるメルヘンホラーも多い。
 メルヘンホラーは誕生してから特に大きな変動もなく、安定して一定の規模を維持し続けている。舞台の特殊性や元々あまり怖くないこともあり、微ホラー化の流れの影響をほとんど受けなかったことも大きい。
 一方でグラフィックを重視している点でインディゲームとの親和性が高く、近年存在感を高めつつあるインディホラーに徐々にパイが奪われていかないかが懸念される。
 日本や中国と比べてそれ以外の国ではメルヘンホラーが制作される割合がやや高いが、これは日本や中国以外では王道ホラーの比率が少ないことが要因ともいえる。

 3-4.王道ホラー

 フリーホラーは2015年頃までは懐古ホラーが主流だったが、2016年頃から始まった微ホラー化の流れによって勢力図が大きく変わる。その勢いは収まることを知らず、瞬く間に懐古ホラーに代わる文法が確立されていき、翌年の2017年に王道ホラーは誕生した。
 王道ホラーは舞台が現代日本のことが多いが、これも技術的にRPGツクールVXまでは未実装だった現代素材が、RPGツクールMVから導入されたことが大きい。RPGツクールMVの登場は微ホラー化の流れが始まった時期とも一致する。
 王道ホラーのジャンルを不動のものにしたのは、やはり本格ではない推理ホラーとして公開された『絆輝探偵事務所(2017)』だろう。実際当時の盛り上がりは凄まじく今でも記憶に残っているし、スパチャで投げ銭を得る光景には先駆的なものがあった。それほどの人気を博した背景には、2015年に初公開された『稲葉探偵事件ファイル(2017)』の下地があったことも大きかった。
 また単純明快な王道ホラーの型が作られたことも大きく、その型が使われた創作は王道ホラーと認識されやすかった。前述した2作に加えて『迷い子たちのララバイ(2019)』『花曇と夜空(2021)』『カイタイスイリ(未完)』などは、その型が色濃く使用されている。
 更にスマホノベルメインでありながら、フリーホラーに多大な影響を与えたSEECの存在も無視できない。特に『四ツ目神(2016)』などの初期作は怖くないホラーの模範となり、王道ホラーの発展にも大きく貢献した。
 一方で型に忠実でない王道ホラーも数多くある。王道ホラーはその誕生の仕方ゆえに、ジャンルとしての許容範囲がかなり広いのだ。例えばサイコホラー寄りのものでも、異能が出てきたり霊や怪異が登場するものは、王道ホラーと認識されやすい。総じて超現実の要素がありつつも、内容がかっちりしていてロジカルなものが、王道ホラーとして認識される傾向にある。
 型に忠実でない王道ホラーには『貴方の価値を教えてくれ(未完)』『SUKI(2017)』『細胞神曲(未完)』『オカルティックデッド(2023)』『瓦礫シリーズ(2022)』『KILLER IN THE MIRROR(未完)』などがある。有料作では『Tokyo Dark(2017)』などが、加えて3Dでは『7年後で待ってる(2017)』『忘れないで、おとなになっても(2020)』などが王道ホラーである。
 一方で海外では王道ホラーの比率が日本と比べて明らかに少ない。例外として中国では王道ホラーが日本と同じくらいあり、多くの良作を輩出するEternal Dreamを筆頭に時代感を進めている。国によって割合に差がある要因としては、街に対するイメージの違いが影響しているのではと思っている。
 最後に王道ホラーの型を羅列する。キャラの型には「主人公が探偵や霊能などのスキルを持つ」「パートナーもスキルを持っていたり霊や怪異の場合もある」「探索の途中で霊や怪異を仲間に引き入れる」などがある。舞台の型には「現実空間が舞台で街中を駆け回る場合もある」「現代が舞台で電子機器が登場する」などがある。ストーリーの型には「恐怖に立ち向かうアツい展開がある」「内容がかっちりしていて推理要素がある場合もある」「多くの登場人物と関わりながら話が進む」などがある。演出の型には「UIや絵がペルソナの影響を受けている」「お洒落な音楽が流れる」などがある。

 3-5.サイコホラー

 サイコホラーはフリーホラーがメジャーになってしばらく経った2012年頃に、懐古ホラーから種分化するかたちで誕生した。
 内容としては人間の闇をメインに描き、霊や怪異は出さないか出しても副次的な立ち位置となる。代表的なものにはヤンデレがあり、ミステリーやサスペンスでも事件の中に常軌を逸した要素があればサイコホラーとなる。
 プレイヤーによってはホラーと定義しない場合もあり、実況者の層も他のホラーとはやや異なる。
 代表作には『Raisond’etre(2021)』『SHADOWシリーズ(2023)』『神林家殺人事件(2015)』『Sacred Syndrome(2020)』などがある。
 デスゲームではえんため大賞で大賞を受賞した『キミガシネ(未完)』は、フリーゲーム全体として見ても無視できない代表作だ。他にも『異世界勇者の殺人遊戯(未完)(†)』『人身売買デスゲーム(2018)』『マーダグラム(未完)』『マジカルデスペア(未完)』『ギセイヒーロー(未完)』などがある。どの作品も閉鎖空間が舞台のデスゲームで完成度が高い。
 一方でダンガンロンパなどの影響で、ミステリーやサスペンスでも異能が絡んでくるものや霊や怪異が関わってくるものが一定数ある。その逆に閉鎖空間ではないデスゲームなんかも稀にある。そういった場合は王道ホラーとして認識されやすい傾向にある。
 他のホラーと比べてノベルとの親和性が高く、特にデスゲームは見下ろし探索よりもノベルの方が多い。
 ちなみに海外では見下ろし探索のデスゲームは日本以上に少ない。この差は日本のデスゲームがアツマールの推しによって盛り上がったことが要因としてあると思っている。もしアツマールがなければ日本も海外のようになっていた可能性があり、裏を返せばそれだけアツマールがデスゲームに果たした貢献は大きかったといえる。

 3-6.インディホラー

 インディゲーム制作が個人にまで広がった2020年頃になると、「フリーホラー×インディADV」というかたちでインディホラーというジャンルが登場する。
 作風としてはインディゲーム特有の行儀の良さに、フリーホラー特有のエグ味が混ざったようなものが多い。一方で日本のインディゲーム特有のとぼけた空気感は廃されている。
 具体的な要素としては横スクロールや特殊なゲーム性を取り入れたゲームがこれに該当し、中には特定のインディゲームをリスペクトしたものもある。グラフィックの面ではピクセルアートが多く、メルヘンな雰囲気がありつつも舞台が現実空間なものもインディホラーと認識されやすい。
 交雑が進みホラー要素は文脈として残る程度だが、最後まで残った文脈は特定のプレイヤーにとって重要な要素なので軽視はできない。
 代表作には『グリッチ・キャスケット(2021)』『EmptyEnd(2022)』『HELLO, HELLO WORLD!(2020)』『ワールドエンド・サマーデイズ(2021)』『ウワガキアイ(2022)』『メルヘンスローター(2022)』などがある。ノベルでは『SCARE TAXI(2021)』『文字化化(未完)』などがある。3Dホラーでは無料版もある『P.M.シリーズ(未完)』などがある。
 まだ登場したばかりのジャンルなので、今後どのような進化を遂げるかは未知数である。インディホラーというジャンルを安定して維持するには、インディゲームの価値観に取り込まれないように気を付けなければいけない。

 3-7.懐古3Dホラー

 懐古3Dホラーは2Dの懐古ホラーのパイを奪うかたちで2017年頃から始まった。やっていることは2Dの懐古ホラーと本質的に変わらないが、2Dをほぼやらない3Dメインの実況者が一定数登場したため種分化した。
 フリーゲームを考える上で8年周期を意識するといいと書いたが、3Dホラーは2Dホラーと比べて8年遅れて進んでいるように感じている。実際には16年前から2Dホラーはあるが、3Dホラーには実況のない時代が存在しないため、8年省略して8年遅れとなっている。3Dホラーの始まりが2017年頃からとすると、恐らく2025年頃から3Dホラーも大きく時代感を進めていくのではと予想している。
 3Dホラーは制作の難しさから自作グラフィックを使用することが難しい。そのため特定のアセットが使われることが多く、現状どれも似たようなものになりがちだ。逆にいえばその制限がなくなった時に、2Dホラーのような多様な表現が出てくることが予想できる。特に3Dキャラを手軽に生成できるようになれば、作者の幅にも多様性が生まれるだろう。
 今後の動き次第では「2Dホラー×3Dホラー」として、2.5Dホラーやボクセルホラーが一定の勢力を伸ばす可能性もある。その場合も懐古3Dホラーとは異なる表現が出てくるのではと予想している。
 ちなみに懐古ホラーは現象の性質を持つので2Dと3Dでそれぞれ独立させたが、それ以外のホラーは作品の性質が強いので2Dと3Dで分けずに統合させた。

 4.フリーゲーム

 この章ではフリーホラー以外のフリーゲームの歴史ついて、代表作を挙げつつ解説する。フリーゲームのジャンルは主に「ADV、ノベル、RPG」の3つから成り立っているので、大きくその3つに区分した。
 またここでの解説はフリーホラーのプレイヤーの視点から見たもので、その外側にまでは踏み込んでいない。可能ならノベルやRPGのプレイヤーの視点から歴史を解説する人が出てきて、それらを補完してほしい。

 4-1.ADV

 基本的にはフリーADVといえばホラーを指すほどその割合が高い。程度はあるが完全にホラー要素のない作品を見付ける方が困難である。しいていえばバカゲーが一定数ある程度である。
 そんな中代表作として挙げられるのは、フリーゲーム年表のレビューで最高点を付けた『愛病世界(2020)』である。完成度が非常に高く熱狂的なファンも多くいる。
 フリーADVがホラー以外に多様性がないのに対して、インディADVはホラー以外の作品も豊富にある。無料だと過激なものに向かいがちなのはどの媒体でも一緒だ。

 4-2.ノベル

 近年のフリーノベルは一部を除いてフリーゲームらしさを失い始め、代わりにノベコレという文脈に取って代わられている。場合によってはフリーゲームよりも同人ゲームとして認識している作者も多い。そのためフリーノベルを無自覚にフリーゲームとして扱うことが、徐々に難しい状況になりつつある。
 一方でフリーゲームらしいノベルはアツマールから多く出ている。代表作には『勇者の選択肢がおかしい(未完)』『ルチアーノ同盟(2022)(†)』などがある。他にもデスゲームにはノベルが豊富にあり、それらはフリーゲームの文法を持つことが多い。面白いことに一部のフリーノベルレビューサイトではアツマールのノベルを避ける傾向がある。
 ちなみにノベル形式のフリーホラーとホラーノベルを分類するとしたら、その判別方法は実況向けかどうかが一つの指標となる。
 その基準に沿って代表作を挙げると、なろう系のざまぁ要素をフリーホラーの文法に落とし込んだ『墨染楼閣(2022)』や、優しい世界のレビューで最高点を付けた『死月妖花~四月八日~(2019)』などは、実況向けではない骨太のホラーノベルといえる。

 4-3.RPG

 RPGはRPGツクールやウディタの本来の用途で作られるジャンルだけあって、フリーゲームのジャンルとして大きな勢力を持っている。シナリオ重視の見下ろし探索RPGに限れば、インディゲームでもRPGツクールやウディタが勢力を維持している。
 フリーゲームらしさのある代表的なRPGには『奇劇物語(未完)』『肉弾怪奇譚(未完)』『ぶきあつめ(2018)』などがある。
 RPGはフリーゲームとしての認識を多くの作者が持っているが、一方でそのフリーゲームらしさを定義することは難しい。理由としては昔のコンシューマーに影響を受けたゲームが多く、フリーゲームに影響を受けたものが少ないことが挙げられる。
 例を挙げると中世ファンタジーや世界規模の壮大な話が多く、現代や個人に焦点を当てた話が少ない。これは日本だけでなく海外でも同じ傾向がみられる。

 5.おわりに

 解説の中で数多くの作品を挙げたが、これでも相当数を絞った。可能ならもっと多くの作品を取り上げたい気持ちだ。
 ここまで色々執筆してきたが、これらはあくまで一つの解釈で絶対に正しいものではない。特にホラーのジャンルは実際には明確に線引きできるものではない。この文章を参考にしつつも、実際にプレイして各プレイヤーがそれぞれ勘所を掴んでほしい。
 可能なら他にもこういった歴史を整理して解説する人がもっと現れてほしいと思うし、そういったものが公開されたら是非見てみたい。
 いずれにせよ今まで漠然と考えてきたことを言語化できて肩の荷が下りた。今後も可能な限り時代に合わせて内容を改定していければと思っている。
 ちなみに簡単なラフではあるが系統樹も作成したので、よければ参考にしてみてほしい。
 最後に参考文献として「私的フリゲ史~ホラーを中心に~」「フリーホラーゲームは絶滅寸前だ!」を挙げておく。他にもフリーゲームサイトの章で挙げた各サイトも、歴史を遺している優秀な参考文献だ。